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「令和の百姓一揆」に見る日本農業の危機 — コメ価格高騰でも苦しむ農家の実態

 

「農終い(のうじまい)」という言葉が、今、農村地域で交わされているのをご存知でしょうか。これは農業の終焉を意味する深刻な危機感を表す言葉です。

米の小売価格が過去1年で約2倍に高騰しているにもかかわらず、日本の農家は悲鳴を上げています。この背景には何があるのでしょうか。

2025年3月30日、東京の都心部を約30台のトラクターが走る異例の光景が広がりました。「令和の百姓一揆」と銘打たれたこの抗議活動が示す日本農業の深刻な現状と、私たち消費者への影響について詳しく見ていきましょう。

東京の都心部を約30台のトラクターが走る

東京の都心部を約30台のトラクターが走る





この記事でわかること

「令和の百姓一揆」が全国で行われた背景と農家が訴えている具体的な内容

コメ価格が高騰しているのに農家の収入がほとんど増えない構造的な問題

農業従事者の減少と高齢化が日本の食料安全保障にもたらす深刻なリスク

歴史的な「百姓一揆」から学べる現代の農業問題への教訓

消費者である私たちが日本の農業と食を守るために具体的にできること

「令和の百姓一揆」とは何か — 全国14カ所で行われた農家のデモ活動

このセクションでは、全国規模で広がった農家によるデモ活動の実態と背景について解説します。


トラクターで都心を行進 — 3300人が訴えた農業の窮状

2025年3月30日、東京都港区の青山公園から渋谷区の代々木公園まで約5.5キロの区間を、普段は田畑で見かけるトラクター約30台が走りました。表参道や原宿といった都内の人気エリアを通るこの異例の光景には、「所得の補償を」「国産を守ろう」という農家らの切実な声が響きました。

この行進には、トラクターに乗った農家だけでなく、徒歩で参加した一般市民も含め、約3300人(主催者発表)が参加しました。青山公園を出発する前には「農家を守ろう」「農家に補償を」などの声が上がり、都心の一角に農業の危機を訴える異例の風景が広がりました。


全国に広がる抗議活動の実態 — 富山から沖縄まで

実は東京での抗議活動は氷山の一角にすぎません。同じ日、富山や奈良、沖縄など全国14カ所でも同様のデモが行われました。たとえば富山では、トラクター3台と軽トラック10台を先頭に、およそ70人の農家や市民が「令和の百姓一揆」という横断幕を掲げて行進しました。

この全国規模の抗議活動を主催したのは「令和の百姓一揆実行委員会」。約500人の農家が所属するこの組織を代表する菅野芳秀さん(75)は、山形県で養鶏と稲作を両立する循環型農業を手がける農業従事者です。菅野さんは「農家が減って一番影響を受けるのは消費者だ。他人事ではなく国民全体で一緒に考えてほしい」と訴えかけています。


農家の声
「農家を守ろう」「農家に補償を」「所得の補償を」「国産を守ろう」—これらのスローガンは、単なる補助金要求ではなく、日本の食料安全保障の危機への警鐘でもあります。

農家たちが求める「所得補償」の意味と必要性

「令和の百姓一揆」で農家たちが訴えているのは「所得補償」です。これは単純な補助金ではなく、欧米諸国のように農業従事者が持続可能な経営を行うための経済的基盤を確保する仕組みを指します。

日本の農家、特に中小規模の生産者は、自然災害や市場価格の変動、生産資材の高騰などのリスクに常にさらされています。一方、欧米諸国では農業の公益的機能(食料安全保障、環境保全、景観維持など)を認め、農家の所得を安定させるための制度が確立されています。日本の農家たちは、このような国際標準の仕組みを求めているのです。


 

米価高騰の裏で進行する農家の窮状 — 流通システムの構造的問題

このセクションでは、コメ価格が大幅に上昇しているにもかかわらず、農家の収入がわずかしか増えていない矛盾の背景を探ります。


コメ価格の歴史的高騰 — 1年で2倍になった小売価格の実態

現在、スーパーでコメ5キログラムの平均価格は4172円と、1年前と比べて約2倍になっています。これは記録的な高騰であり、多くの消費者が家計への影響を実感しているでしょう。政府の備蓄米が緊急放出され、5キロ入り3000円台半ばで店頭に並び始めましたが、それでもコメ相場全体の過熱をすぐに抑え込むのは難しい状況です。

このようなコメ価格の高騰を聞くと、「農家はさぞ潤っているだろう」と思われるかもしれません。しかし、現実はまったく異なります。


見えない中間搾取の仕組み — 農家の手取りがわずか15%増にとどまる理由

驚くべきことに、小売価格が2倍になっても、農家の手取りは約15%程度しか増えていないのです。あるコメ農家の証言によれば、JAに売り渡す際の買取価格はコメ30kg1袋で3000円程度。これをスーパーでの小売価格に換算すると、5kgあたり500円程度にしかなりません。

小売価格4172円と農家手取り相当の500円——この差額の大部分はどこへ行くのでしょうか。この問題の核心には、日本の農産物流通システムの構造的課題があります。

農家→農協(JA)→卸業者→小売店→消費者という多段階の流通経路では、各段階でマージンが上乗せされます。特に問題視されているのは、農協や中間業者の取り分が大きすぎるという点です。米を右から左に動かすだけで大きな利益を得る業者が存在し、その負担は最終的に消費者と生産者の双方に及んでいます。


数字で見る中間搾取
消費者が支払う米5kgの価格:4,172円
農家の手取り相当額(同量):約500円
差額:3,672円(約88%が中間マージン)

農協(JA)の二面性 — 支援者か搾取者か

日本の農業システムにおいて重要な役割を果たす農協(JA)の存在も議論の対象となっています。本来、農協は農家を支援するための組織ですが、現実にはさまざまな問題点が指摘されています。

農家からは「農協が肥料や農薬などの生産資材を高く販売し、収穫物を安く買い取る」という声が上がっています。「供出(きょうしゅつ)」と呼ばれる制度では、農家は自家用を除いた収穫物をJAに売り渡すことが半ば義務付けられており、その買取価格は市場価格より低く抑えられていることが多いのです。

さらに、JAが農業資材の販売を独占している地域では、農家は高額な資材を購入せざるを得ず、そのコストが農家の収益を圧迫しているという現実があります。


 

危機的状況にある日本の農業 — 急速に進む担い手不足と高齢化

このセクションでは、日本の農業が直面している深刻な後継者不足と高齢化の実態、そしてそれがもたらす食料安全保障への影響を解説します。


10年で半減した農業従事者 — 111万人の現実と統計的分析

農林水産省の調査によると、農業を主な仕事とする「基幹的農業従事者」は2015年に176万人だったものが、2024年には111万人にまで減少しました。わずか10年で約37%も減少したことになります。言い換えれば、10年前に3人いた農家が今は2人を切る水準にまで減っているのです。

この減少率が続けば、2030年代には農業従事者が70万人を下回る可能性もあります。日本の食料自給率が低下の一途をたどっている背景には、このような深刻な担い手不足があるのです。


「農終い」という言葉が示す農村の絶望

「農終い(のうじまい)」——これは「農業の終焉」を意味する言葉で、現在の農村地域で高齢の農家の間で交わされているといいます。菅野芳秀さんの言葉を借りれば、「いま農村では『農終い』という言葉が交わされている」のです。

この言葉には、次世代に農業を引き継げない絶望感が込められています。農業の労働条件の厳しさ、安定しない収入、将来への不安——これらが若い世代の農業離れを加速させています。ある若いコメ農家は「兼業やアルバイトをしながら、コメ作りをしないといけない現状がある」と語っています。


農業従事者の現状
現在の基幹的農業従事者数:111万人(2024年)
平均年齢:69.2歳
10年間の減少率:約37%
このまま減少が続けば、日本の食料生産基盤が崩壊する恐れがあります。

後継者不足がもたらす食料自給率への影響と国家的リスク

日本の食料自給率はカロリーベースで約38%(2023年度)と先進国の中でも低水準にあります。農業従事者の減少は、この自給率をさらに押し下げる要因となります。

食料安全保障の観点から見れば、これは国家的リスクとも言えます。世界的な気候変動や地政学的緊張の高まりにより、食料の国際市場は不安定化しています。こうした状況下で自国の食料生産基盤が弱体化することは、日本全体の危機につながる可能性があるのです。


 

歴史との対話 — 江戸時代の「百姓一揆」から考える現代の農業問題

このセクションでは、現代の「令和の百姓一揆」と歴史的な百姓一揆を比較し、時代を超えて繰り返される農業問題の本質に迫ります。


歴史のなかの農民抵抗運動 — 百姓一揆の社会的背景

「百姓一揆」という言葉は、主に江戸時代に農民が過酷な年貢や不当な扱いに対して起こした集団的な抵抗運動を指します。当時の百姓たちは、生存の危機に瀕して立ち上がりました。年貢の減免や悪政の是正を求め、時には数千人規模で領主や代官所に訴え出たのです。

江戸時代には3,000件以上の百姓一揆が発生したとされています。これらは単なる暴動ではなく、当時の社会制度の中で農民が自らの権利を主張する手段でした。百姓一揆の多くは、農民側に一定の成果をもたらしたことも歴史研究から明らかになっています。


トラクターから鍬へ — 現代の「令和の百姓一揆」と歴史的一揆の共通点と相違点

現代の「令和の百姓一揆」と歴史的な百姓一揆には、大きな違いがあります。江戸時代の百姓たちが鍬や鎌を手に決起したのに対し、現代の農家はトラクターや軽トラックで都市部を行進します。

しかし、その本質には共通点があります。どちらも農業従事者の生存権と尊厳をかけた闘いであり、不公正な経済構造に対する異議申し立てなのです。令和の時代に「百姓一揆」という歴史的な名称が選ばれたのは、現代の農家たちが歴史との連続性の中で自分たちの運動を位置づけているからでしょう。


百姓一揆の歴史と現在
江戸時代:3,000件以上の一揆が発生。農民は鍬や鎌を手に年貢の減免や悪政の是正を要求。

令和時代:全国14カ所でトラクターや軽トラックによるデモ。適正な所得補償と持続可能な農業の実現を要求。

共通点:不公正な経済構造に対する農業従事者による組織的な異議申し立て。

繰り返される農民の窮状と社会構造の問題

時代を超えて繰り返される農業従事者の窮状には、社会構造の問題が横たわっています。江戸時代には封建的な年貢制度が、現代では多段階流通システムと中間搾取の構造が、農業従事者から適正な報酬を奪っているのです。

歴史学者の視点から見れば、こうした構造的不均衡は、その時代の社会システム全体と深く結びついています。だからこそ、解決には社会全体の意識改革と制度変革が必要なのです。


 

日本の食を守るための具体的アプローチ — 消費者と生産者の新たな関係構築

このセクションでは、日本の農業を持続可能なものにするための具体的な解決策と、私たち消費者ができることを提案します。


農業流通システム改革の可能性 — 中間搾取を減らす仕組み

日本の農業を持続可能なものにするためには、流通システムの改革が不可欠です。近年、注目されているのが「直接販売モデル」です。

農家が消費者に直接販売することで中間マージンを削減し、生産者と消費者の双方にメリットをもたらす取り組みが各地で始まっています。たとえば農家自身がオンラインショップを開設したり、産直市場を通じて販売したりする例が増えています。

大規模農家の中には、農協を経由せず独自の販路を開拓することで収益性を高めている事例もあります。このような直接販売モデルは、農家の手取りを増やすだけでなく、消費者に新鮮で安価な農産物を提供することができます。


消費者ができる具体的支援方法 — 直接購入と意識改革

消費者である私たちにもできることがあります。

1. 地元の農産物を優先的に購入する
地産地消の考え方に基づき、地元で生産された農産物を積極的に選ぶことで、地域の農家を直接支援することができます。

2. 産直市場やファーマーズマーケットを利用する
中間業者を通さない直接取引の場を支援することで、農家の手取りを増やし、消費者自身も新鮮な農産物を適正価格で購入できます。

3. 農業の多面的価値を理解する
農業は単に食料を生産するだけでなく、国土保全や景観維持、文化継承など多様な機能を果たしています。この「多面的機能」への理解を深め、その価値に見合った対価を支払う意識を持つことが重要です。


消費者ができる具体的行動
・地元の産直市場やファーマーズマーケットを定期的に利用する
・スーパーでも「国産」や「地元産」の表示を確認して購入する
・農家の直販サイトやCSA(地域支援型農業)への参加を検討する
・食料自給率や地域農業についての理解を深め、周囲に伝える

若い農業従事者を支援する社会システムの構築に向けて

日本の農業の未来を守るためには、若い世代が農業に参入しやすい環境づくりが不可欠です。

最近では、革新的な農業技術(スマート農業)の導入や、農業の6次産業化(生産・加工・販売を一体化する取り組み)によって、若い世代の農業参入を促進する動きも見られます。

しかし、こうした個別の取り組みだけでは不十分です。農業従事者の所得を適正なレベルに保障する制度的枠組み、就農時の初期投資を軽減する支援策、農村地域の生活環境整備など、社会全体で若い農業従事者を支える仕組みが求められています。


おわりに — 私たちの食卓の未来を考える

「令和の百姓一揆」が投げかけた問題は、単に農家の所得問題にとどまりません。それは私たちの食卓の未来、そして日本の食料安全保障に直結する重大な課題です。

米価高騰の中でも苦しい農家の現状、急速に進む担い手不足と高齢化、複雑な流通システムの問題——これらは一朝一夕に解決できる問題ではありません。しかし、消費者である私たちが問題を理解し、できることから行動を起こすことで、少しずつ変化を生み出すことができるのではないでしょうか。

菅野芳秀さんの言葉を借りれば、「農家が減って一番影響を受けるのは消費者」です。この問題は決して他人事ではなく、私たち一人ひとりに関わる課題なのです。持続可能な農業と食の未来のために、生産者と消費者が手を取り合い、新たな関係を築いていくことが求められています。

あなたは今日、どんな食べ物を口にしましたか?その食べ物がどこでどのように作られ、誰の手によって食卓に届けられたのかを、少し考えてみませんか?それが、日本の農業と食の未来への第一歩になるかもしれません。


「令和の百姓一揆」についてよくある質問

Q: 「令和の百姓一揆」とは具体的に何を求めているのですか?
A: 主に欧米並みの農家への所得補償制度の実現を求めています。これは単なる補助金ではなく、農業の公益的機能(食料安全保障、環境保全、景観維持など)を評価し、農家の経営を安定させるための制度です。

Q: コメ価格が高騰しているのに、なぜ農家の収入は増えないのですか?
A: 多段階の流通システムによる中間マージンが大きな原因です。農家からJAへの買取価格は30kg1袋で3000円程度であり、小売価格が2倍になっても農家の手取りは約15%程度しか増えていないという現状があります。

Q: 農業従事者の減少は私たち消費者にどんな影響があるのですか?
A: 日本の食料自給率のさらなる低下、輸入依存度の上昇による食料価格の高騰、地域の環境・景観の悪化、食文化の喪失など多岐にわたる影響が考えられます。菅野芳秀さんが「農家が減って一番影響を受けるのは消費者だ」と述べているように、これは国民全体の問題です。

Q: 「農終い(のうじまい)」とはどういう意味ですか?
A: 「農業の終焉」を意味する言葉で、現在の農村地域で高齢の農家の間で交わされています。次世代に農業を引き継げない絶望感や、日本の農業が終わりに向かっているという危機感を表現しています。

Q: 消費者として日本の農業を支援するために具体的に何ができますか?
A: 地元の農産物を優先的に購入する、産直市場やファーマーズマーケットを利用する、農家の直販サイトを利用する、食料自給率や地域農業についての理解を深めて周囲に伝えるなどの行動が考えられます。小さな行動の積み重ねが大きな変化につながります。

 

 

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